立て直す会の本設立趣旨

 

『耐震偽装から日本を立て直す会』 設立趣旨
〜 構造偽装問題を機に建築の公共性を捉えなおす〜

 

 2005年秋、突然明るみに出た「構造偽装事件」は、華やかな都市開発の一方にあるわが国の都市・建築のうすら寒い現状を浮き彫りにした。わが国では年間100万棟をさらに超える建物が建設されている。その大多数が法律の定める最低の基準を満たしており、今回の事件は例外と信じたい。しかし、この間明らかになりつつある問題発生の構図は、その確信に赤信号をともした。建築に対する市民の信頼は大きく揺るぎつつある。
 不幸にも問題のマンションを購入した人々に対しては的確な補償措置がとられるべきである。すでに建設されたマンション等の構造チェックが推進されるべきである。新耐震以前の建物について、耐震診断の促進とそれに基づく耐震性強化の措置がとられるべきである。これらは、国民の財産・生命・安全の確保を付託された国家が、建築基準法や建築士法を制定し運用してきたことを踏まえ、相当の公的資金を投入して行われるべきである。
 しかし、今回の事件をこのような直接的な手当てに終始させるべきではない。今回の事件の背景には、建築関係制度がもともと不十分であったことに加えて、1980年半ばから開始され現在なお推進されている都市・建築に関する民活・規制緩和措置があるからである。この構造を変えることなしに、事件の再発を防止することはできない。
 問題の核心は「建築確認」制度である。構造を含む設計を、法律に定めた基準に適合しているかどうか「確認」さえすれば自動的に白黒の判断ができるというフィクションが、形式的な確認審査を合理化してきた。建築確認という行政処分を民間検査機関に開放する根拠となってきた。建築確認事務が自治事務と規定されたにもかかわらず、国が全国一律に規準を定めることを合理化してきた。実際には、単体規定、集団規定を問わず、法令と照らし合わせただけでは白黒の判断のつかないグレーゾーンが広がっている。「建築確認」という砂の上にすべての制度が組み上げられていることが、今回の問題の構造的要因なのだ。
 もとより、このことは直ちに民間開放以前の体制に戻ることを意味しない。しかし、現在のような民間確認機関の跳梁を放置しておいてよいことにもならない。第3の道が真剣に模索される必要がある。
 建築家の職能が未確立に終わっていることも基本的な課題のひとつである。夙に、設計・施工の一体となった体制の問題が指摘されてきたが、今回も専門家の地位の不確かさ、それと表裏の責任感の欠如が露呈された。
 いうまでもなく、建築は市民が生活と経済活動を行う上でのもっとも身近なインフラである。しかも単なる寝ぐらやハコではない。建築は空間をつくり社会関係を律する。都市が美しいこととコミュニティが活き活きとしていることは常に表裏である。安全であることを第一の条件として、建築の社会において果たすべき役割は果てしなく大きい。建築の信頼を問い、その再構築を図ることは、ひとり建築関係者だけでなく市民全体がコストの負担を含めて取り組むべき基本的な課題といえよう。
 私たちは、1980年代の半ばから、「建築家と法律家の会」「都市政策を考える会」「バブルを活かす自治体議員の会」などの活動を通して、節目節目に、市民の立場から都市・建築の政策・制度にあり方について意見を公表してきた。今回の構造偽装問題は、わが国の都市・建築制度を問い直し、あるべき姿へ再構築していく絶好の機会である。その動きを少しでも進めるため『耐震偽装から日本を立て直す会』を結成する。そして「建築の公共性」とそれを維持する制度のあり方について検討を重ね、その結果を各方面に訴えていきたい。

2005年12月16日

代表世話人:
日置雅晴 (弁護士)
北村文子 (桶川市民)
小野紀美子 (新宿区議)
事務局:
小枝すみ子
03-3253-0092、携帯090-5506-1516
koeda@chiyoda-no-koe.net

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